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ハドロン理論物理グループのホームページへようこそ。


我々のグループでは強い相互作用の基礎理論である量子色力学 (QCD=Quantum Chromodynamics) の理論研究をしています。 クォークグルーオンの相互作用は単純な式で書かれますが、そこから驚くほど複雑で興味深い物理が出てきます。 高温高密度QCD物質の物性、相対論的重イオン衝突実験の現象論、高密度核物質/クォーク物質の状態方程式、さらには場の量子論の基礎的な問題まで幅広い研究分野をカバーしています。

QCD研究


特色

自然界には4つの基本的な相互作用が知られている。電磁相互作用、重力相互作用は感覚的にも認知され、古典物理学で古くから研究されてきたが、 弱い相互作用、強い相互作用は現代的な量子論なくして、その意味をとらえることはできまい。 これら4つの中でも強い相互作用の基本理論である量子色力学あるいはQCD(Quantum Chromodynamicsの短縮形)は、理論としての完成度が傑出している。 電磁相互作用を記述する場の量子論である量子電気力学あるいはQEDは、高エネルギー(連続極限)で破綻してしまう。 この破綻は弱い相互作用との統合により、電弱相互作用という形で解決するのだが、ヒッグスセクターに階層性問題など不自然さが残る。 従って電弱相互作用は、未知のより完全な理論の低エネルギー有効理論に過ぎないと考えられている。そういう意味で言えば、実はQCDも有効理論なのだろうが、 QCDそのものには、理論としての明らかな破綻や物理的スケールの不整合など全くない。そこで、QCDをひとつの指導原理と設定して、 QCDから導かれるべき既知現象の解明、あるいはQCDに隠れている未知現象の探索を目指すのが、QCD物性物理研究の特色である。

理論

場の量子論では一般に相関関数の母関数が求められれば、あらゆる物理量を計算することができる。つまり

Z[j]=\int \mathcal{D}A~e^{iS[A]+\int j \cdot A}

が得られれば、適当な汎関数微分によってAで書かれる演算子期待値を作ることができる。 例えばあるハドロン質量を知りたければ、そのハドロンの量子数を持った演算子の相関関数を計算し、相関の減衰の様子を見てやればよい。 QCDは次のようなラグランジアン密度で定義される:

\mathcal{L}=-\frac{1}{4}F^a_{\mu \nu}F^{\mu \nu a}+\bar{\psi}[i\gamma^\mu(\partial_\mu-igA_\mu)-m]\psi

ここでAはグルーオン場、\psiはクォーク場を表す。クォーク場については積分できるので、 作用はAだけでも書けてしまう。単純な形をした理論ではあるが、もしもこの理論がきちんと解けたなら、 身の回りの物質の質量の実に98%*1が説明できる。 つまり現実的な加速器実験等で到達可能なエネルギースケールの範囲内では、QCDは、The Theory of "Almost" Everythingと言ってよい。 

強いCP問題

QCDは指導原理たりうる完成された理論体系だが、ひとつだけ未解決のまま残された課題がある。理論に対称性等から許される物理定数があるとき、普通、特別な理由がない限り、 物理定数が厳密にゼロになることは考えづらい。ところがQCDのCP対称性の破れ度合いを表すパラメター\thetaは非常に高い精度でゼロとコンシステントになっている。 何故そうなっているのかは誰も知らない。偶々、自然がゼロを選んだだけなのかも知れない。理論の未知のセクターとの結合によるのかも知れない。 通常、QCD研究では\theta = 0を前提とする。しかし最近では、超高温物質など特殊な環境では、微分\partial_\mu \thetaがゼロではない可能性が盛んに議論されており、 新しい物性を探る手がかりとして注目されている。 なお、強いCP問題をもって標準模型が不完全であると言うのは誤謬を含んだ表現である。\theta < 10^{-11}となる理由を我々が知らないということは、それ自身なんら標準模型と矛盾するものではない。

なお\theta真空という言葉はQCD研究で認知されるに至ったものであるが、現在ではより幅広い分野で一般に用いられている。 例えば物性系でも\theta真空という言葉は人口に膾炙しており、トポロジカル超伝導の有効理論などに\theta項が現れる。 当然ながら\theta真空の理解にはインスタントンが欠かせない。インスタントンやスカーミオンなどトポロジカルな励起状態は全て、 歴史的にはQCD(あるいは原子核)研究で発見されたものである。 言うまでもなく現代的QCDにおけるインスタントンやトポロジー的性質の理解は、驚くほど進んでおり、全くQCDとはどこまで深い理論なのかと、 底が知れない。

本グループで研究しているQCD研究分野


高エネルギー摂動QCD

これはQCD研究のまさに王道である。全てのQCD研究を志す者は、必ず一度はくぐるべき門だと言えよう。QCDの最も古い研究分野でありながら、 現在も最も盛んに研究が続いている。具体的には、例えば、陽子の中のクォーク組成を考えてみると、クォーク模型的には2つのuクォークと1つのdクォーク、 つまり合わせて3つのクォークから成るわけだが、 このような描像は量子論的には正しくない。真空では常に粒子・反粒子がゆらいでいるので、「3つのクォーク」状態には必然的に 「4つのクォーク+1つの反クォーク」状態が混ざる。 特に高エネルギーでは、より多くのクォーク、さらに多くのグルーオンが励起した状態が混ざることになり、陽子の波動関数は、 クォーク模型から想像されるようなものとは似ても似つかないものへと変容する。 このような極限状態の陽子の波動関数の情報を取り出すのが、高エネルギー摂動QCD計算である。 ここで重要なことは、摂動計算を完全に実行したとしても、計算できるのは波動関数そのものではなく、 波動関数がエネルギーとともにどのように変化するか、つまり輻射による量子発展だという点である。


陽子中のパートン数が量子発展する模式図。陽子は加速されローレンツ収縮している。
低エネルギー(左)から高エネルギー(右)にいくにつれ、陽子がパートンに埋め尽くされ、
やがて飽和すると波動関数はスケーリング則に従うようになる。

理論物理学ではしばしば「極限」を考える。実際にそのような実験が可能かどうかは気にせずに、QCDが正しい理論だとしたときに、 ある極限のもとでの理論の答えを得ることができるかどうかを考えるのである。さてそれでは、高エネルギー極限において、陽子の波動関数はどうなっているのだろうか? QCDの予言では、グルーオン数が増大し、ついにはグルーオン飽和が起きるとされる。飽和した状態は古典電磁気学のクーロン場のように振る舞う。 これは全く驚くべきことである。輻射による量子補正を足していくと、ついには理論は古典的になってしまう! グルーオン飽和は現代の摂動QCDにおける最も重要なキーワードであろう。最近の進展に無関心な研究者の中には、 摂動QCDはただひたすら高次の摂動計算を職人的に続けているのだと誤解する向きがあるが、とんでもない。 摂動QCDは、摂動的であるが非線型的だという新しいレジームを開拓し、理論として、物理現象として、進化し続けているのである。 このような非線型QCDを扱う理論的枠組をカラーグラス凝縮と呼ぶ。飽和したQCD物質はスケーリング則を示し、 飽和運動量と呼ばれる物理量Q_sのみで特徴づけられる。

QCD真空の構造

場の量子論における「真空」とは決して空っぽの状態ではない。クォークやグルーオンから見た空っぽの真空を摂動的真空、 ハドロンから見た空っぽの真空をQCD真空と、 慣例的に呼び分けている。ハドロンはすでにクォークとグルーオンの非摂動的な状態だから、 QCD真空はハドロンをハドロンのまま安定化するような機構を内在していなければならない。このような機構の帰結として、 物質の質量の98%が自然と導かれるのである。 ハドロンの安定性はカラー閉じ込め、質量の起源はカイラル対称性の自発的破れとそれぞれ密接に関係している。 こうした非摂動的なQCD真空構造の面白いところは、もしもQCDが正しく解けさえすれば勝手に出てくるはずのもの、だというところである。 格子QCDシミュレーションによる数値的な証拠により、QCD物理の専門家の多くは、カラー閉じ込めとカイラル対称性の自発的破れについて、 すでに本質的な部分は理解したと思っている。しかしそもそも「理解する」とは一体どういうことなのか? 数値的に計算できるようになればよいのか、それとも重要な自由度を抽出して簡単な描像を打ち出すべきなのか、 それとも厳密な不等式で制限をかけていくことなのか。人によって「理解」の解釈が違っているからこそ、 QCD物理のアプローチは多岐にわたり、QCD物理の専門家の間でさえ、ときに苛烈な舌戦を余儀なくされる。 このような謂わば形而上学的な議論にも果敢に立ち向かうのが、QCD物理の魅力だと言えはしないだろうか*2。 ひとつの実用的なアプローチは低エネルギー有効模型である。また似て非なるアプローチに「有用な自由度を取り出す」という考え方もある。 その昔、インスタントン液体が流行った時代があって、カイラル対称性の自発的破れはうまく記述できたものの、 カラー閉じ込めはついにうまく記述できなかった。最近では、 有限温度インスタントンに非自明なホロノミーを持たせた解が、実は複数のDyon (カラー電荷とカラー磁荷を持った粒子的な励起) の集まりだということが分かっており、Dyon液体で全てをうまく記述する模型が作られている。 こうした見方を格子QCD計算でどのように検証していくか、非常に興味深い理論的挑戦であろう。

高温・高密度QCD

QCD研究全体の中でも研究者人口の割に全く理解の進んでいないのが、QCD相図研究である。上図はQCD相図の一例であり、横軸がバリオン密度に対応する化学ポテンシャル、縦軸が温度である。 温度・密度が小さいうちには、ハドロンが基本的な自由度であるようなハドロン相が実現している。温度を上げるとハドロン中のクォーク・グルーオンが融けてプラズマ状となった クォーク・グルーオン・プラズマへとクロスオーバー転移する。クロスオーバーとは相転移を経ることなく滑らかに移り変わる様を指す。 今日のQCD物理学者のほとんどにとっては、クロスオーバー転移は常識として受け入れられているのだが、これは実は不思議なことである。 ハドロン相はクォークやグルーオンを閉じ込めているから、ハミルトニアンの固有状態はカラーを持たないハドロンのフォック状態で張られているはず。 温度因子を重みに持った混合状態を作っても、相転移なしにカラー自由度が出てくることは許されない。 ひと昔前には、相転移なしにカラー非閉じ込めが起きるわけがないと信じて、相転移の存在を探し求めた理論家もいた。 最近はそうした先人たちの苦労はすっかり忘れ去られ、 小手先の研究が横行しているのは痛ましい現実であると言わざるをえない*3

QCD相図の別の例はWikipediaのphase diagramセクションに見出すこともできるが、 高密度におけるカイラル相転移の次数については、まだよく分かっていない。 クロスオーバー転移よりも一次相転移の方が観測に具体的な予言ができるため、多くの理論家、実験家にとって、一次相転移になることが望ましいシナリオである。 しかし純理論的な立場からすると、クロスオーバー転移の方が、正しい物理的解釈を与えるのが難しい。 QCD相図研究はポリアコフループを入れた模型の確立以来、なすべきことがひと段落して、些か停滞期に入った感があるのだが、 そのような時期であるからこそクロスオーバー転移の正しい意味など、先人たちの深い洞察へと立ち戻ることも有用であろう。 高密度QCDの本質的に難しいところは、汎関数積分の符号問題にある。これは単に数値計算上の困難というだけでなく、 場の量子論の根源的な問題だと言うべきである。符号問題について何かを言うことはいつでも容易い、 なぜなら誰にも解けない問題だから。最近では中性子星の観測から高密度QCD物質の状態方程式にかなり強い拘束をかけることが可能になった。 QCD物理屋たるもの、純粋理論に拘泥することなく、現象論も最大限に活用するのが本来の姿であろう。 中性子星研究は常に古くて新しい研究テーマである。

極限的な外場中のQCD

温度・密度だけでなく、強磁場、強電場、強重力場など、様々な極限的環境要因を考えることができる。 理論は自由だから、このような思考実験はいつでも可能だし、面白ければそれでよい。実験で実現できる可能性があればなお面白い。 強磁場については、高エネルギー重イオン衝突実験で発生していると思われており、しかもその強度たるや中性子星表面磁場の100万倍だというから、 これはもう間違いなく宇宙最強磁場である。ただし寿命が短い。そのため磁場発生の実験的証拠は見付かっていない。 同様に電場も発生しているはずなのだが、電場の効果は理論的な扱いが容易ではなく、研究が遅れている。強重力場については、 先行研究もたくさんあるのだが、QCD相図研究などと比べると、まだまだ発展途上である。ミクロブラックホールなど応用がないわけではないが、 今のところ重力効果の観測的な動機は薄弱であると言わざるをえない。強重力場といえば誰しもブラックホールを思い浮かべるだろうが、 重いブラックホールはシュワルツシルト半径が大きく、従って地平線における表面重力は弱い。言い換えればホーキング温度が低い。 従ってQCDのエネルギースケールに比べて無視できる程度の効果しかない。これは非常に不思議なことではある。 ホーキング輻射研究のほとんどは自由場の半古典近似でなされているため、QCDのような非摂動・非線型な理論で何が起こるべきなのか、 実のところ、よく分かっていないのである。あまり盛んに研究されていない今のうちに先鞭をつけるべき課題なのかも知れない。

もうひとつよく分からないのが加速度の効果である。加速度系の物理を考えてみると、式のうえでは重力場中の問題とほとんど等価であることが分かる。 これは重力場中で自由落下するフレームでは、重力の効果を局所的に打ち消すことができることから、自然と理解できるだろう。 それでは、QCDのカイラル対称性の破れは、強加速度系ではどうなるだろうか? ある人は、高温状態と同じく対称性が回復するはずだと言い、ある別の人は、何も起こらないはずだと言い、また別の人は、対称性がさらに大きく破れるはずだと言う。 世の中におよそこれくらい間違い論文の出回っている研究テーマは他にないのではないか。 科学の発展に間違いはつきものである。みんな自分が正しいと確信を持つまで考えぬいて論文を書く。それでも間違えることはある。 逆に、そこまで考えぬいたはずなのに間違えるような研究テーマというのは、挑戦しがいのある人類の叡智のフロンティアなのだということである。 やはり理論研究というものは、役に立つとか立たないなどという小さな枠にとらわれない、思想的な側面を併せ持つべきなのだろう。

さて、こうした研究に応用がないかと言えば、決してそんなことはない。高エネルギー重イオン衝突実験の初期状態は、 グルーオン場による極めて強いカラー電磁場で表される。カラー電場中でクォークは強い加速を受け、従って加速されるクォークから見ると、 静止した真空はあたかも熱浴のように振る舞う。このような効果が実験で観測される粒子数分布と関係しているのではないかと言われている。 一例を挙げると、電子・陽電子衝突実験は、常識的に考えると原子核の性質やクォーク・グルーオン・プラズマとは無縁のように思える。 ところが生成されるハドロン量の分布を見ると、不思議なことに、あたかも熱分布しているかのように見える。 それが何故なのか満足のいく説明を与えられた人はまだいない。加速度系の感じる熱浴効果を反映しているのだろうか?

QCDにおける実時間発展

相転移など熱力学的な性質の研究は、格子QCDシミュレーションの得意とするところである。しかし粒子生成など、実時間のプロセスは、なかなか難しい。 格子QCDシミュレーションではクォーク場は積分してしまった形を用いるのだが、粒子生成の問題を真面目に考えるときには、 ディラック方程式を解く方が遥かに見通しよくできる。ディラック行列式を評価せずにモンテ・カルロ積分できないし、 そもそも振動的な重みに対してアルゴリズムが破綻するので、 従来の格子QCDシミュレーションは限定的にしか適用できない。新しい手法が必要となる。

実時間の量子論の難しさは、ただ単にユークリッド時空とミンコフスキー時空の違いというだけではない。理論の深さがまるで違うのである。 従来の場の量子論では、摂動的真空から摂動的真空への振幅だけを問題とする。LSZ公式を使ってS行列の行列要素を読み取ることによって、 様々な反応に寄与する物理量を計算することになる。ここで重要なことは、摂動的真空の具体的な波動関数を知っている必要が全くない、ということである。 無限の過去と無限の未来へと断熱的に飛ばしてやることによって、端の状態に関係なく、物理量を一意に決定することができる。 一方、実時間で計算するのは、ある時刻における演算子の期待値である。真空の遷移振幅とは違って、期待値の計算には当然、その時刻における波動関数が必要である。 あるいは、ある過去の一点における初期波動関数、より一般には密度行列を与えてやらねばならない。 簡単な量子力学の調和振動子を例にとって比較すると、従来の真空の場の量子論では、x(t)の真空の相関関数しか気にしない。つまり \langle 0 | x(t_1) x(t_2) \cdots | 0 \rangleを計算することになる。実時間では、初期時刻t_0で波動関数\Psi(t_0)だという条件のもとで、 時刻tでの波動関数\Psi(t)を計算せねばならない。あるいは\Psi(t)を与えるようなファインマン積分核を求めるわけであるから、 真空の場の量子論に比べて、実時間の問題がいかに難しいか想像できるというものだろう*4


相対論的重イオン衝突実験の初期条件の模式図。
コヒーレントな場を熱化させるのは難しい。

現実の物理系では、相対論的重イオン衝突実験の初期ダイナミクスの解明を、ひとつの例として挙げることにしよう。 摂動QCDの予言から、高エネルギーの原子核の波動関数は、グルーオンのコヒーレントな場で書かれることが分かっている。 一方、クォーク・グルーオン・プラズマの現象論的解析から、原子核衝突からごく短時間で熱的なマターとなることも分かっている。 こうした状況下での理論の使命は、分かっている初期条件に、分かっている理論(つまりQCD)を使って、 分かっている終状態(すなわちクォーク・グルーオン・プラズマ)の性質を説明することである。 これが実に難しい。まずコヒーレントな場を壊さないといけない。普通に運動方程式を解いても、なかなか壊れるものではない。 コヒーレンスを壊すためには、量子ゆらぎと、ある種の不安定性が必要なのである。量子ゆらぎというのは普通は、 古典近似がよく成り立つときには、単なる補正を与えるだけであり、上図のようにグルーオンのコヒーレントな場があるというのは、 つまりそういうことである。にもかかわらず量子ゆらぎを種にして、コヒーレントな場を壊さないといけないというのは、 一見して矛盾したアイデアであり、この矛盾を克服するために不安定性が不可避なのである。量子ゆらぎが本質的に重要だということは、 紫外発散をどう処理するか、という困難とも向き合わねばならない。宇宙論でもインフレーションや再加熱過程など、 似たようなアイデアが出てくるのだが、半古典近似をしたり、すでに熱浴があったりして、 場の量子論の基礎的な問題としてはあまり研究されていないような印象を受ける。紫外発散は繰り込みで処理できるでしょう、 と思う向きもあろうが、原子核衝突の初期時空発展は1次元膨張している。 膨張時空の零点振動エネルギーの繰り込みなど、どうやったらいいのか、誰も答えを知らない。こういうことを突き詰めていくと、 結局は暗黒エネルギーの起源とも関連してくるはずなのだが、こんな難しいことは万人向けのテーマではないので、 本気でやろうと思ったら相当の覚悟が必要であろう。

用語の簡単な解説 


クォーク
カラー荷を持ったレプトン。自然界の4つの相互作用全ての影響を受ける粒子。
グルーオン
クォーク間の相互作用を媒介するゲージ粒子。光子とは違って、自分自身と相互作用し、グルーオンだけの束縛状態を作ったりもする。
ハドロン
クォーク、グルーオンから作られる複合粒子の総称。原子核物理の中にハドロン物理という大きな分野が存在する。 しかしよく考えれば核子もハドロンだから、 本当はハドロン物理といった方が原子核物理より広義なのでは、という突っ込みも可。
バリオン 
ハドロンのうち、フェルミオンをバリオンと呼ぶ。電弱相互作用のトンネル効果を別にすれば、バリオン数は保存量。 クォーク数はバリオン数の3倍で定義される。代表的なバリオンは、陽子、中性子など。
メゾン
ハドロンのうち、ボゾンをメゾンと呼ぶ。代表的なメゾンは、\pi^0 \pi^\pm K^0 \bar{K}^0 K^{\pm} など。カイラル対称性質量ゼロのディラックフェルミオンは、右巻きセクターと左巻きセクターが分離する。 右巻きセクターと左巻きセクターをフレーバー空間で別々にユニタリー変換するとき、 このような変換のもとでの理論の不変性をカイラル対称性と呼ぶ。物理では決して「キラル」とは読まない。 何故かchiralという単語はスペルチェッカーなどに標準で入っていないが、ハドロン物理をやっている人ならユーザー辞書登録しておくのは必須。
漸近的自由
高運動量あるいは短距離で結合定数(つまり見かけの電荷)が小さくなること。普通の分極現象とは真逆。内輪の冗談で使ったりすると、専門家っぽい気分を味わえる。(例:大学の雑用が多すぎて研究時間が漸近的自由してるよ!)
閉じ込め
カラー荷を持った粒子が決して実験的に観測されないという経験的事実を指した用語。厳密にはクォーク閉じ込めとグルーオン閉じ込めは別の事象である。 ときどき内輪の冗談でも使えるが、普通名詞なので空振りに終わる危険性も。(例:カラー閉じ込めの会議に閉じ込められた1週間・・・)
格子QCD計算
理論による実験物理の最先端分野。もし格子QCD計算が完成したらもう実験なんて要らなくなるかも知れない。 誰も言わないけれど、格子QCD計算をやっている人は密かにそんな野望を持っているし、実験側も密かにそんな虞れを抱いている・・・らしい。
中性子星
超新星爆発後にできる、いわゆるコンパクト天体のひとつ。中性子星自身、巨大な原子核だということもできるが、 原子核と違って核力で束縛しているのではなく、重力によって束縛している。 核物質の状態方程式に多大な情報をもたらしてくれるし、強磁場の物理などロマン尽きせぬ宇宙の灯台。 (オッサン世代にとって「宇宙の灯台」と言えば「バラン星」なんですが・・・分かる人だけ分かってください。)

*1 残り2%はクォークとヒッグス凝縮の結合から。しかし宇宙全体で見れば、暗黒物質、暗黒エネルギーの方が遥かに優勢である。
*2 QCD物理の専門家に会ったら、QCD研究は究極的に何を目指しているのですか?と聞いてみることをお勧めしたい。全てのQCD物理学者は自分なりの答えを持っているべきだろう。
*3 これが目先の結果を追い求める昨今の成果主義と切り離せない問題であることは言うを待たない。
*4 調和振動子の解ける問題でファインマン積分核を求めてみれば、いかにややこしい問題だか実感として理解できるはず。