Messages for Students & Postdocs

ハドロン理論グループを志望する学生の皆さんへ

修士課程の教育方針

自分で勉強してください。なるべく幅広い勉強をすることが望ましい。10年後に周りの皆がどんな研究をしているか、誰にも予想できません。どんな研究課題にも柔軟に対応できる基礎体力をつけるのが、修士課程で最も大切なことです。他大学のセミナーにも積極的に出席し、東京近郊で研究会があれば、必ずしも自分の研究テーマと近いものでなくとも、できるだけ参加するようにしましょう。

ひとつでも論文を書けば、どこに出ても自分は研究者だ、と胸を張って言えます。まずは論文を書きましょう。勉強するときに、論文を書くという目的意識を明確に持つこと。散漫に勉強するだけなら趣味の物理。職業的に物理を研究するということは、継続的に情報発信するということです。内容の評価は後世の人間が決めること。誰しもよい研究をしたい。そして自分がよい研究だと思うものが、本当によい研究なのか、なかなか確信を持てずにいる。こうした迷いに慣れ切ってしまうことなく、しかし徒に恐れすぎることもなく、自分がよいと信じるものを信じ抜く強い心を鍛えるのも、修士課程の大切な修行のひとつです。

すでにうまくいっている共同研究に修士課程の学生を組み込むことは、基本的にやりません。何を研究してもよいです。やりたいことが決まっているなら、それが本当にできそうかどうか、話し合うことにしましょう。やりたいことと、できることは、実際のところなかなか一致しないものです。あるいは一緒に議論しながら適性がありそうで面白そうなテーマを一緒に探してもよいです。どんなテーマであれ、きちんとやり抜けば、きちんと意味のある論文になります。あれもやりたい、これも興味ある、とフラフラしているのは、よくありません。一見、意識が高いように見えますが、何でもやりたいというのは、何もできないということです。研究は投資です。ほかのやりたいことを犠牲にすることも、ときには必要です。人間には時間も能力も限られていて、そうした制約の中で結果を出すことが求められます。修士課程のうちに最低一本は論文を書きましょう。書き方は丁寧に指導します。


博士課程の教育方針

博士課程のあなたは、学生にあって学生にあらず。プロの研究者予備軍だという意識を持ちましょう。誰と何を研究してもよいです。自発的に論文を書いてください。議論は大歓迎です。もし議論をもとに何かを発見して、それがあなたのアイデアならば、是非、単著で論文を書きましょう。初めのうち単著論文を書くことは怖い。全ての責任を自分が負わねばならないから。この怖いという気持ちを、いつでも大切にしましょう。大きな共同研究の中にずっと組み込まれて、いつまでもこの怖さを知らずにいる人もいます。それでどこまでも続けば、それはそれでよいのでしょうが、流れ作業で論文を作成しないよう、常に自分の気持ちをリセットすることだけは、忘れるべきではありません。

やがて誰かがあなたの仕事を批判するかも知れません。そんなときには喜びましょう。研究者として存在感が出てきたということです。セミナーや研究会に呼ばれることも増えるでしょう。できるだけ引き受けましょう。ひとつひとつのセミナートーク、研究会トークが、自分のキャリアにつながっていると自覚しましょう。そうです、ポスドクとして生き抜くためのキャリアを磨きましょう。自分に何ができるのか、を意識してください。それがあなたのキャリアです。

研究室は議論の場を提供します。研究会発表の機会をサポートします。もし論文作成に困難を感じていれば、周りの人たちに相談しましょう。解決法が見付かるはずです。教育方針は、放任というのとは違います。研究で困っていそうなら積極的に示唆します。しかし最後に我が身を救うのは自分のキャリアだけです。キャリアを磨くには経験値を増やすしかありません。ときに辛いこともあるでしょうが、全てができるようになる必要はありません。本当に必要なことは、自分が自信を持ってできると言えるようなことを開拓し、確実にできることを増やしていくことです。

もうひとつ。研究室のためのサービス、例えばセミナー係など、責任を持って担当してください。理論研究者は我儘な人たちの集まりのように思われがちですが、さにあらず。安心して仕事を任せられる、という信用は、業種によらず必須だと考えておいてください。どんなに研究ができても、よっぽど天才的な人材なら別ですが、頼まれたことをいい加減にしか処理できないような人には、いつまでもポストは回ってこないでしょう。アカデミアに残るためのスキルは、実社会で求められるスキルと、決して遠く隔たったものではありません。

ハドロン理論グループを志望するポスドクの皆さんへ

学振研究員は自由に研究してください。海外に出るのもよいでしょう。研究室メンバーの誰かと一緒に論文を書くのもよいでしょう。研究室の一員として期待される役割はありますが、そうした役割をこなすことまで含めて、熾烈な生存競争にさらされています。研究室にはときどき海外からゲストが滞在することもあります。そうした機会も積極的にとらえて、存在感をアピールしていきましょう。将来、あなたのボスになる人かも知れません。研究室にいれば色々な刺激があることでしょう。チャンスをつかまえるための行動を起こすのは、あなたの判断ひとつです。是非、研究室の中で議論をリードする存在となってください。あなたの活躍に期待しています。

特定のプロジェクトで雇用されるポスドクは、まずはそのプロジェクトで成果を出すことを最優先にしてください。こちらから研究して欲しいテーマを具体的に指示するかも知れません。逆に、こちらでやって欲しいことで結果さえ出してもらえれば、あとは並行して別に研究の幅を広げることを推奨します。ある程度、プロジェクトへの貢献にプレッシャーを感じてもらわないと困りますが、比較的自由に研究を楽しんでください。是非、ごきげんな論文を一緒に書くことにしましょう。