Highlights from Recent Works

Fixed points and flow analysis on off-equilibrium dynamics in the boson Boltzmann equation

arXiv:1703.09492

本研究では熱化の時間発展の過程で現れる非自明な固定点について、簡単化した運動学的方程式を通して解析した。場の量子論の実時間発展の記述は一般には難しいが、特定の極限を考えれば状況に応じて古典場のダイナミクスや運動学的方程式などに帰着することができる。これらの記述方法によるシミュレーションにおいて、熱化の途中で様々な過渡的なスケーリング解が現れることが分かっている。これらのスケーリング解を分類し物理的に解釈するために、本質的な構造を残したまま簡単化したボルツマン方程式、すなわちボソン・ボルツマン方程式を用いる。

ただし fi = fi ) とした。ρ(ε) := εδ は状態密度である。

この方程式の固定点、すなわち解を挙げていく。右辺の衝突積分には f3 のオーダーの項と f2 のオーダーの項が含まれる。これがボース粒子の特徴で、実際にボース・アインシュタイン分布(BE)が方程式の平衡解になっている。また、粒子数密度 f が小さい極限で f2 のオーダーの項だけを残した方程式を考えることができる。これは古典粒子の運動学的方程式になる。平衡解はマクスウェル・ボルツマン分布(MB)になる。逆に f が大きい極限では f3 の項だけを含む方程式を考えることができ、これは古典場の運動学的方程式に対応する。平衡解は、かのレイリー・ジーンズ分布(RJ)になる。この解は紫外発散で有名なように、形式解である。因みにこの文脈で MB はウィーン則と、BE はプランクの式と等価である。これらの平衡解に加えて、非自明な形式解(非熱的固定点)が存在する。コルモゴロフ・ザハロフ解は非平衡定常解であり、粒子数の定常流を持つ KZ-I とエネルギーの定常流を持つ KZ-II が、古典場極限と古典粒子極限のそれぞれにある。自己相似発展解(SS)は本研究で新しく見つかった解で、これもまた古典場極限と古典粒子極限のそれぞれに存在する。SS は形状を保ったまま時間発展する解になっている。定数解 f = const は有限の化学ポテンシャル・温度無限大に対応する形式解である。さらに、方程式に現れる指数 α, δ によっては、これらの解が互いに混合してボース粒子においても非熱的固定点が現れる。

これらの固定点の近傍における時間発展の構造を探りたいが、分布関数 f を一般の関数空間の中で考えるのは困難である。そこで、これらの固定点を含むような少数のパラメータで表される部分空間の中に f を制限して考えることにした。以下のパラメータ付けを用いると良い。

 f(\epsilon ; \beta, \gamma, \mu) = \left( \frac{1}{e^{\beta(\epsilon-\mu)} -1} \right)^\gamma

この制限された空間の中での時間発展の構造を、くりこみ群フローの要領で抽出する。以下は (γ, β) 平面 (μ = 0) での時間発展のフローの様子である。

この図からさまざまなことを読み取ることができる。BE解 (γ = 1) の端点にRJ解がある。KZ-I と KZ-II はそれぞれ一次元アトラクターとリペラーの端点になっていることが分かる。更に、 γ < 1 の領域は行き先によって3つに分割される。行き先の一つは β → ∞ であり、これは MB に対応する。残りは BE と定数解 (原点) である。実際の時間発展に現れる解はアトラクターに繋がっている KZ-I と関連すると考えられる。

Spatially Assisted Schwinger Mechanism and Magnetic Catalysis

arXiv:1605.05957

The quantum field theory vacuum in the presence of a strong electric field is thought to be unstable against the production of particle anti-particle pairs. This phenomenon, referred to as the Schwinger mechanism, has however not yet been seen due to the strong fields required—enough such that the fermion mass threshold can be met. A temporally inhomogeneous electric field (with characteristic frequency ω) can reduce this threshold; yet the effects of adding an inhomogeneous magnetic field (with characteristic wave-number κ) were unknown. We find using the worldline path integral formalism that with the addition of a spatially inhomogeneous magnetic field, parallel to the electric field, the mass threshold may be reduced culminating in an effective—not dynamical—mass:

m^2 \to \tilde{m} = m^2 -\kappa^2

The mass augmentation, we find, is a robust feature independent of the inhomogeneous shape of our background magnetic field.

The spatially assisted Schwinger mechanism could be important in nucleus-nucleus collisions, laser experiments, and Dirac semimetals. The pair production rate per unit time and volume, w, applicable for the case of a laser experiment with eE = eB = 10-2 m2, can be seen in the figure below. Notice the continual enhancement with wave-number. Indeed this feature also persists for the stronger field case, whereas the temporal enhancement coming from the electric field does not.

The ramification of such a mass shift also begs the question: Do we have the proper vacuum in equilibrium? In a constant magnetic field it is known the fermionic condensate is dynamically enhanced or "catalyzed.'' We find in the presence of a spatially inhomogeneous magnetic field the reorganized vacuum yields a greater dynamical mass and hence condensate. Thus, we find along with pair production magnetic catalysis is also enhanced. Additionally, a net chirality is generated by the topologically non-trivial background. This coupled with the magnetic field produces the Chiral Magnetic Effect, which too is found to be enhanced through the spatial modulation.

円偏光電場下におけるアノマリー密度誘起効果

arXiv:1509.03673

古典的 Lagrangian の持つカイラル対称性は量子効果により破れる。これはカイラルアノマリーと呼ばれ、その物理的効果の例として π0 の 2γ への崩壊が挙げられる。またアノマリーは輸送特性をはじめとした系の物性へも影響を及ぼす。とりわけ、通常の電磁気学に反して磁場と平行にカレントが生じるカイラル磁気効果 (chiral magnetic effect; CME)

{\bf j} = \frac{e^2 \partial_0 \theta}{2\pi^2} {\bf B}

は、QCD 研究において、例えば超強磁場が生じる高エネルギー重イオン衝突の文脈で盛んに議論されている。他方で近年、凝縮系物理において相対論的な準粒子が生じる Dirac 及び Weyl 半金属が理論・実験ともに関心を集めており、CME をはじめとするアノマリー誘起効果をテーブルトップの実験で実現できる可能性が拓かれている。

カイラルアノマリーの効果はいわゆる θ 項の形により取り入れることが可能であり、ここからアノマリー誘起による電磁応答は一般に (QED の場合では)

j^\mu \propto \varepsilon^{\mu \nu \rho \sigma} \partial_\nu \theta F_{\rho \sigma}

と書ける。ここで ∂νθ が有限であることは自明ではない。実際、重イオン衝突における CME においては揺らぎに由来して ∂0θ が生じるとされており、これをチューンすることはほとんど不可能である。 したがってアノマリー誘起効果の実験的実現の観点から、この ∂νθ の人為的なチューンは極めて有用である。

そこで本研究では、Dirac フェルミオン系を円偏光電場で駆動することで、時間反転対称性を破る非平衡定常状態が実現されることに着目した。 駆動周波数が十分大きい場合、円偏光電場の効果を時間依存しない ∇θ = β という θ 項の効果として近似的に取り込むことが可能である (ここで β は円偏光電場の回転面と垂直なベクトルであり、その大きさは振動電場の振幅 E と周波数 ω を用いて β = E2 / ω3 と表される)。すると上述の一般的な表式を思い出せば、この駆動系の外部磁場への応答として、電荷密度

j^0 = \frac{e^2}{2\pi^2} \boldsymbol{\beta \cdot B}

がアノマリーを通じて誘起される。この表式は CME と類似するが、β は印加する円偏光電場だけに依存する。このように円偏光電場により人為的にチューン可能なアノマリー誘起効果を提案した。

QCD的アプローチによる非相対論多成分混合フェルミ系の解析

arXiv:1511.01544

QCDの基本的構成要素であるクォークは、カイラル対称性という性質を持っている。 カイラル対称性は、QCDの古典的ラグランジアンでは保持されているが、実際の世界ではQCDの量子効果によって自発的に破れている。 この宇宙の観測可能な質量の大部分は、このカイラル対称性の自発的破れによって生成されることが知られている。 カイラル対称性の自発的破れは、QCDの重要な性質の1つであり、古くから多くの理論的アプローチが考案されてきた。

一方、非相対論フェルミ粒子にはカイラル対称性は存在しない。 非相対論フェルミ粒子は低温では超流動や超伝導と呼ばれる状態になるが、この現象は粒子数保存に関する対称性の自発的破れで説明される。 一般には粒子数保存の対称性はカイラル対称性とは異なるが、多成分混合フェルミ系ではこれら2つの対称性は類似している。 本研究では、この類似性に着目し、カイラル対称性の自発的破れを解析するために考案されたQCD的アプローチを用いて、非相対論多成分混合フェルミ系を解析した。

本研究では複数のQCD的アプローチを採用したが、その中の1つがBanks-Casher関係式である。 Banks-Casher関係式は、QCDにおける有名な関係式であり、対称性の破れの秩序変数と経路積分計算で得られるスペクトル密度を結びつける式である。 QCDの場合のBanks-Casher関係式はカイラル対称性の破れの秩序変数を与える式であるが、非相対論の場合は超流動の秩序変数を与える式になり、 N 成分混合系では

\langle \psi^{\rm T} I \psi + {\rm h. c.}\rangle = N \pi R_1(0)

と書ける。 ただし、 R1(0) は原点でのスペクトル密度である。 この関係式は、どのような温度や密度、結合定数でも成立する厳密な表式である。 下図に示すように、実際に数値シミュレーションによる経路積分計算を行うと、常流動相から超流動相に転移すると R1(0) が急激に増大することが見て取れる。

スペクトル密度 R1(Λ)

Lefschetz thimbleによる符号問題へのアプローチ

arXiv:1507.07351

振動的な被積分関数を数値積分することは一般に難しい。このような積分には理論物理のあらゆる分野で遭遇する。 例えば実時間経路積分は、実数の作用 S に対して被積分関数が eiS だから、明らかに振動的である。 積分空間を複素化して振動を回避する一般論が存在しており、そのような積分領域をLefschetz thimbleと呼ぶ。つまり、 与えられた被積分関数について、適切なLefschetz thimbleを見付けることができれば、符号問題は解決する。

一方、似たようなアイデアに複素Langevin法と呼ばれる方法がある。これはやはり積分空間を複素化するのだが、 thimble上の積分に書き換えるのではなく、複素平面上で確率分布を発生させて、全複素空間で積分する。従って、thimble を見付ける必要はなく、確率分布が分かればやはり符号問題は解決する。確率分布

P(z,\bar{z})

は虚時間緩和法によって生成され、被積分関数の汎関数として適切なハミルトニアンを構成することにより、

\dot{P} = -HP

を解いて、その基底状態の波動関数から求められる。ここで \dot{P} は仮想時間による微分を表し、 この仮想時間は量子時間とも解釈できる。つまりこれはホログラフィック原理による高次元量子化の具体例ともなっている。

複素Langevin法は収束性に問題が多く、例えば被積分関数として、

e^S \;\;\;\;\;\; S=-\frac{\omega}{2}z^2-\frac{\lambda}{4}z^4

のような簡単なものを選んでさえ、波動関数は十分に局在化せず、遠方では高々べきで落ちる。 そのため一般の演算子期待値は、正しい答えに収束しない。そこで我々は、数学的な基礎づけの明快なLefschetz thimbleの方法を、 BRST対称性(そして実はこれは超対称性も持っているのだが)を利用して複素Langevin法に非常に似た形に書き換え、 ある意味において、両者の方法の「いいどこどり」な手法を開発した。このとき、 ハミルトン問題は超対称量子力学で与えられており、上述の非積分関数の場合、超対称性によって基底状態に3つの縮退が存在する。 (普通の量子力学では基底状態は縮退していないことに注意。) この縮退度が、独立なLefschetz thimbleの数に相当している。我々は手法の有効性を確かめるために数値計算を行い、実際、 波動関数が虚時間発展に対して極めて安定に基底状態へと収束することを確認した。以下のアニメーションで、 その様子を直感的に見てとることができよう。ただしこの手法では、 P はもとのthimbleの「方向」という情報も担うため、 それに対応して2成分必要となる。

原点周りの波動関数の第1成分が収束する様子

原点周りの波動関数の第2成分が収束する様子

正準集合の方法による格子QCD計算を用いた有限密度QCD相図の解明

arXiv:1504.06351

有限密度QCD系には第一原理計算である格子QCDモンテカルロシミュレーションを適用することはできない。 なぜなら、有限密度QCD系ではフェルミオン作用が複素数になってしまい、 モンテカルロプロセス自体が破綻してしまうからであるからである。この問題は"符号問題"と呼ばれ、 数十年に渡り克服されていない大問題である。 一方で、正準集合の方法による格子QCDモンテカルロシミュレーションは有限密度系に対しても適用することができる。 本方法では、純虚数化学ポテンシャルで大分配関数 ZGC を計算し、 それを次のようにフーリエ変換して正準分配関数 Zn を得るというプロセスを取る。

Z_n = \frac{1}{2\pi} \int_{0}^{2\pi} \left( \frac{\mu_I}{T} \right) Z_{\rm GC} e^{in \mu_I / T}

純虚数化学ポテンシャルではフェルミオン作用が必ず実になり、モンテカルロシミュレーションが機能するため ZGC(iμI) を計算することが可能である。 上記の方法で正準分配関数を得ることができれば、任意の実化学ポテンシャルでの大分配関数をフガシティ eμ/T を用いて次のように再構成できる。

Z_{\rm GC} (\mu) = \sum_{n=-\infty}^{\infty} Z_n e^{n\mu /T}

このように計算された任意の実化学ポテンシャルでの大分配関数を用いれば、熱力学量を熱力学関係式より直ちに求めることができる。 "符号問題"を回避できること、任意の実化学ポテンシャルで熱力学量を容易に計算できることが本方法の特徴であり、大きなメリットである。本方法以外にも"符号問題"を回避するための手法は幾つか開発されている。しかし、それらの手法は μB / T < 3 で特徴づけられる領域でしか数値的安定性を保つことができないとされている。正準集合による方法は、 μB / T < 3 の制限を突破することが期待される手法である。 本手法の解説の締めくくりとして、ゼロ密度系での臨界温度 TC を挟んで上下の温度、具体的には T / TC = 1.08, 0.93 での圧力の化学ポテンシャル依存性の計算結果を紹介する。 μB / T < 3 の制限を超えた化学ポテンシャルでの計算がどちらの温度においても成功していることが一目で分かるであろう。

圧力 δp/T4 := pB)/T4 - p(0)/T4 のバリオン化学ポテンシャル依存性

QCD θ真空構造のクォーク質量依存性

arXiv:1408.1189

非可換ゲージ理論であるQCDは可換ゲージ理論であるQEDとは異なりトポロジカルな真空構造をもつ。 具体的には、QCDにはトポロジカルに分類された無数の擬真空 |ν⟩|ν⟩が存在し、真のQCD真空はそれらを間の並進対称性を反映したBloch状態

| \theta \rangle = \sum_{\nu} e^{i \nu \theta} | \nu \rangle

で与えられる。 したがってここで導入される真空角 θ がQCDのトポロジカルな性質を決定する。 我々の宇宙では真空角がどのような値を取っているかについては様々な議論がなされており、標準模型の未解決問題や近年の重イオン衝突実験の中心的テーマとも関係する極めて重要な研究課題と言える。

真空角をパラメータとしたQCD真空構造の特徴の1つが、軸性量子異常を通じて生じるクォーク質量依存性である。 しかしながら具体的にクォーク質量が θ 真空に対してどのような物理的効果を与えるのかは分かっていない。 例えばクォーク質量が無限に軽い(カイラル)極限と重い(クエンチ)極限では θ = π における1次相転移の存在が確認されているが、なぜダイナミカルな自由度が異なるこの両極限で同様の相転移が実現されるのかは全く自明でない。 本研究では、QCDの低エネルギー模型であるDi-Vecchia―Veneziano模型の新たな側面に注目して、これを用いて θ 真空に対するクォーク質量の影響を考察した。 図に示すように、θ = π における1次相転移も含めてカイラル極限からクエンチ極限まで連続的な真空構造が得られた。 さらにカイラル凝縮の θ および m 依存性から、クォーク質量の増加に伴う動力学的な機構を見出した。

真空エネルギーのクォーク質量 m、および真空角 θ 依存性。